創業融資を受けるには、金融機関の審査に合格する必要があります。
「審査」があるということを知っている人は多いと思います。
でも、審査がどのように行われて、何を基準に審査されるのかを知っている方は多くないのではないでしょうか?
できることならば、審査に合格するコツが知りたいなあと思いますよね。
そこで、今回は、長野市の創業融資の専門家である公認会計士・税理士の丸山が、創業融資を確実に成功させる審査のポイントについて説明したいと思います。
創業融資の審査はどのように行われるか
あなたが、金融機関に借り入れの申し込みをすると、融資担当者が付くことになります。
そして、融資の審査が終了するまで、あなたは融資担当者とやりとりをすることになります。
「なるほど、じゃあ、融資担当者を何とか説得すれば、融資をしてくれるんでしょ?」
と思うかもしれませんね。
でもちょっと待ってください。
実は、融資審査の合否を決定するのは、融資担当者ではないんです。
融資の最終的な決定は、金融機関の支店長もしくは、本部がすることになっています。
「じゃあ、私の場合は支店長と本部のどっちが審査するの?」と思いますよね。
支店長が決めるか、本部が決めるかは、借入れの申し込み額によって異なってきます。
支店長の権限内の金額なら支店長の決定で融資が行われ、支店長の権限を越える金額の場合は、本部の決定で融資が行われます。
支店長の権限がいくらまでか気になるところだと思いますが、日本政策金融公庫の場合は1,000万円までの融資について支店長が決められると言われています。
支店長決裁と本部決裁の違いは、本部決裁の方が審査のハードルが高く、融資までの時間がかかるという点です。
それでは、金融機関内部の融資審査の流れについてもう少し詳しくみてみましょうか。
金融機関内部の融資審査までの流れ
あなたが借入れの申し込みをすると、金融機関の支店内で関係者による店内協議が行われます。
融資担当者は、あなたから必要な書類を集めるとともに、面談や事業所の実地調査を通じて情報を収集します。
そして、融資担当者は融資に必要な稟議書を作成し、融資担当役席者の承認のうえ、稟議書が支店長に回付されます。
支店長は、稟議書の内容を精査のうえ融資の最終意思決定をします。
融資金額が支店長の権限を超える場合は、さらに稟議書を本部へ回付して本部が最終意思決定をすることになります。
最終意思決定の段階で、申し込み条件通りの融資決定になるか、融資額を減額するなどの条件付き決定になるか、融資を見送るという判断がされます。
個人の信用情報もチェックされている
ナニワ金融道という消費者金融の漫画を読んだことありますか?
お金を借りにきた人が、他の消費者金融などからお金を借りていないかを信用情報機関に問い合わせをするシーンがあります。
誕生日と名前を入力して、電話で問い合わせすると、レシートのような照会情報がツツーッと印刷されます。
「フン思ったとおりだ!社長やっぱりサラ金と金融屋から600万ほどつまんでいます」
といったやり取りが何度も登場するんですね。
画像出典:青木 雄二 ナニワ金融道(1)
漫画のなかだけではなく、実際にも金融機関内部では、創業融資の申込者について、指定情報信用機関というところに照会をかけます。
そうすると、クレジットカードやローンの返済状況や利用残高を確認することができるんですね。
代表的な信用情報機関には、「CIC」・「全国銀行個人信用センター」・「日本信用情報機構」といったものがあります。
ここに照会をかけて、過去に金融事故を起こしていないか、他からつまんでいないか(借金がないか)を調べるのです。
延滞情報があったり、債務整理をしているような場合、融資審査は不利になります。
心配な方は、各機関に登録されている情報を開示することができますので、調べてみてください。
あなたに所有不動産がある場合、金融機関は抵当権や根抵当権の有無も調べます。
抵当権や根抵当権というのは、担保のことです。
金融機関は担保を設定するのが好きなんですよね。
担保を設定すると、借入れを返せなくなった場合に、不動産を取り上げることができるということになりますから、貸したお金がもし返ってこなかった時の保険になるんですね。
すでに担保が設定されている場合は、他から借り入れがある可能性がかなり高いということにもなります。
審査担当者に直接あなたの声を届ける方法
冒頭で、融資担当者が審査の合否を決めるわけではないというお話をしました。
しかし、融資の審査に必要な稟議書は、あなたの融資担当者が作成することになります。
そして、融資担当者の作成した稟議書にもとづいて融資の決定がされています。
つまり、あなたのビジネスにかかわる情報は、融資担当者を通して審査担当者のもとへ届くということです。
したがって、融資を成功させるには、あなたの融資担当者に過不足なくあなた自身とあなたのビジネスに関する情報を伝えることが必要となります。
「融資担当者が稟議書を作るんでしょ?なんか融資担当者の能力で審査結果が変わりそうで不安なんですけど・・・・」
と思うかもしれませんね。
でも大丈夫です。
審査担当者に直接あなたの声を届ける方法があります。
それが「創業計画書」です。
創業計画書は、稟議書の添付資料として、稟議書とあわせて審査に回ります。
あなたの声を直接審査担当者に届けることができるというわけです。
ですので、創業計画書をしっかり作り込むことが融資を成功させるために重要なのです。
創業融資の審査における3つのポイント
融資の審査では何をみているのか
創業融資において、金融機関の審査で重視されているポイントは、以下の3点になります。
- あなたの能力
- あなたの財力
- 事業計画の実現性
「あなたの能力」、「あなたの財力」、「収支の実現性」が金融機関の融資審査で重要なポイントとなります。
それでは、具体的にどういうものなのか、詳しくみてみましょう。
あなたの能力について
金融機関が重視する「あなたの能力」というのは、あなたに事業を成功させるだけの能力があるかどうかということです。
では、金融機関はどういったところで、事業を成功させるだけの能力があると判断するのでしょうか。
たとえば、以下のようなポイントがあります。
- どんな経験を積んできたか
- 営業や接客ができるか
- ビジネスに必要な人脈はあるか
- 論理的な思考ができるか
- 事業経営への熱意と覚悟があるか
- 金融機関に対して正直に情報を開示しているか
- お金や数字に対する適切な考えがあるか
どれも重要なものではあるのですが、中でも一番重要と考えられるポイントをお教えしましょう。
それは、「どんな経験を積んできたか」です。
金融機関は、新規で始めるビジネスがあなたのこれまでの経験を活かしたものであるほど、成功の可能性が高くなると考えます。
たとえば、「飲食業を8年経験した人が、レストランを開業する場合」と、「飲食業をまったく経験していない人が、レストランを開業する場合」では、どちらが成功しやすいと感じるでしょうか?
未経験で開業するよりも、飲食業の経験を8年積んだ人の方が、レストランを開業してうまくいくと思うのが当然ですよね。
金融機関は「貸したお金がきちんと返ってくるか?」を考えています。
成功しそうな事業ならお金を貸しますし、失敗しそうな事業ならお金は貸しません。
したがって、あなたの過去の経験から、ビジネスが成功する可能性が高いものであることを金融機関へ示す必要があります。
それでは、どうやってあなたの過去の経験をアピールすればいいのでしょうか。
それは、創業計画書の「創業の動機や、経営者の略歴」欄を使ってアピールすればいいのです。
(創業計画書のフォーマットによっては、「開業に必要な経験」という欄があります。)
fa-arrow-circle-right【参考記事】融資が成功する創業計画書の書き方~「創業の動機」の書き方について~
事業に必要なスキルは、これまでの経験で取得してきたということを説明できれば、事業が失敗する可能性が低いと判断してもらえるでしょう。
よく、「何年くらいの経験があればいいのか?」と言う方がいます。
新規事業に関連する経験、これを斯業(しぎょう)経験といいますが、最低5年程度あれば問題ないと考えられます。
ただし、5年間といっても、身に付けたスキルがどの程度あるかも考える必要がありますが。
あなたの能力は、事業を成功させるだけの能力があるかを見られています。
創業計画書に、新規事業に必要なスキルを身に付けてきたということを書くようにしましょう。
あなたの財力について
あなたは事業に必要なお金をどれだけ持っていますか?
「あなたの財力」は、「どれだけお金を持っているか」ということです。
事業を始めると、最初は赤字が続きます。
そして、黒字になるまでは、それなりの期間が必要となります。
その間にもお金はどんどん出て行ってしまいます。
そのため、事業が軌道に乗るまで耐えられるお金が必要なのです。
どんなに赤字であっても、お金さえあれば倒産することはありません。
しかし、お金が無くなれば、事業を続けることが困難になり倒産してしまうのです。
「黒字倒産」という言葉がありますが、これは黒字だけれども、お金が無くなってしまい倒産してしまうということです。
「黒字倒産なんて本当にあるのかよ?」と思うかもしれませんが、倒産した企業の半数は黒字だったにもかかわらず倒産しています。
これは、東京商工リサーチの倒産企業の財務データ分析によって明らかになっています。
調査によれば、2018年に倒産した企業463社のうち、221社である47.73%が黒字であったにもかかわらず倒産しています。
画像出典:東京商工リサーチHP
つまり、お金が無くなれば、黒字だろうと赤字だろうと倒産してしまうのです。
ですので、事業においてお金というものは「超重要」なのです。
私は、公認会計士・税理士の立場から「お客さまの事業を黒字化させる、資金繰りを強化すること」をミッションにしています。
事業を黒字化させることも当然に重要ですが、お金が無くならないようにすることも重要なのです。
それでは、「あなたの財力」は具体的に何をもって見られるのでしょうか。
それは、自己資金です。
自己資金は、あなたが所有しているお金で事業に使用する予定のものです。
親や身内など、誰かから借りたお金は自己資金に含まれません。
よく、自己資金なしで借りられる創業融資というものがありますが、基本的に金融機関の審査は自己資金の有無を見てきます。
事業が軌道に乗るまで継続させるお金を持っているかという点において、自己資金が一つの指標とされているのです。
最近は、創業融資を借りるための自己資金要件がゆるくなっていますが、実質的には融資希望額の3割以上の自己資金は持っていたほうがいいと言えます。
また、事業用の資金以外にも、事業に使う予定の無い預金や、換金可能な株、不動産などがあれば、「あなたの財力」として見てもらえることもあります。
それともうひとつ、金融機関が自己資金にこだわる理由があります。
あなたは、自己資金無しで開業する人をどう思うでしょうか?
ちゃんと準備してこなかったの?うまく行くの?大丈夫?
と思いませんか?
金融機関もまったく同じことを思っています。
金融機関は思いつきで開業しようとする人を嫌います。
思い付き開業しようと思った人と、しっかり準備をして開業しようと思った人では、どちらにお金を貸したいと思いますか?
しっかり準備をしてきた人ですよね。
自己資金を持っている人というのは、しっかり準備してきた人として見てもらえます。
特に、自己資金をコツコツと貯金してきた人は、計画性があり継続的な努力ができる人として見てもらえるのです。
創業融資の審査にパスするために、融資額の3割以上の自己資金を用意しましょう。
事業計画の実現性について
最後に事業計画の実現性です。
これは、創業計画書における「必要な資金と調達の方法」と「事業が軌道に乗った後の収支計画(事業の見通し)」が実現可能なのかという点です。
- 必要な資金と調達方法について
ここは、資金の使い道である設備資金と運転資金の内容が妥当かどうか、他の金融機関や親・知人等からの借入がある場合、実現可能かどうかをチェックされます。
- 事業が軌道に乗った後の収支計画(事業の見通し)について
ここが審査のなかでも一番重要となるところです。
特に強調しておきたいのが、「売上は実現可能なのか」と、「借入を返済できるだけの利益が出るか」という点です。
売上がたたなければ、借入れを返済するためのお金を確保できませんよね。
そして、創業期においては思ったように売上があがらないということがよく起こります。
ですので、金融機関としては、予測している売上の根拠を知りたいのです。
たとえば、すでにある程度の販売先を確保している場合と、そうでない場合は、すでに販売先を確保できている方がお金を貸す側として安心できますよね。
また、売上があがったとしても、仕入や経費、税金などを差し引いた利益から借入の返済をする必要があります。
ですので、借入れを返済できるだけの利益が出るのかという点も重要になるのです。
創業計画書で、将来的に借入を返済できるだけの利益が出るということ、そのための売上の根拠となるものを示すことが重要です。
まとめ
創業融資の審査におけるポイントを説明してきました。
今回、一番伝えたかったことは、創業計画書に審査のポイントがぎゅっと詰まっているという事です。
ですので、創業融資を受けるときは、創業計画書を頑張って作り込みましょう。
なかでも特に重要なポイントは、
- 新規事業に必要なスキルを身に付けてきたということを書く
- 融資額の3割以上の自己資金を用意する
- 将来的に借入を返済できるだけの利益が出るということ、そのための売上の根拠となるものを示すこと
ということでした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
丸山 大介 公認会計士・税理士事務所の紹介
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