【台風19号】被災された個人の方の税金の軽減又は免除措置等について

この度の台風19号により被害を受けられた皆さま方に、心からお見舞い申し上げます。

今回は、長野市の公認会計士・税理士の丸山大介が、災害により被害を受けられた方の税金の軽減又は免除措置等についてご紹介します。

災害により被害を受けられた個人の方の税金の軽減又は免除措置等について

サラリーマンなどの給与所得者や、公的年金受給者、個人事業主の方など、個人が災害で被害を受けた場合には、次のような税制上の措置があります。

  • 災害により申告等が期限までにできない場合の期限延長
  • 災害により税金納付ができない場合の納税猶予
  • 所得税等の軽減又は免除

これらの措置を受ける場合、「り災証明」が必要となる場合があります。

り災証明は市町村役場で発行してもらうことができますが、「り災証明」をスムーズに発行してもらうために、被災した場所の写真を多く撮っておくことが望ましいと考えられます。

したがって、被害状況をデジカメやスマホなどで多く写真に収めておくようにしましょう

また、浸水による損害は、浸水の深さによって損害と認められる割合が異なってきますので、浸水の深さがわかるようにメジャーなどと一緒に写真を撮っておくと良いでしょう。

災害により申告等が期限までにできない場合

災害により被害を受けられた方は、「災害による申告、納付の期限延長申請書」を税務署に提出することにより、申告・納付等について期限の延長を受けられる場合があります。

災害により税金納付が困難な場合

災害により、財産に被害を受けたときや納付が困難なときは、「納税の猶予申請書」を税務署に提出することで、納税の猶予を受けられる場合があります。

災害により住宅や家財などに損害を受けた場合

所得税及び復興特別所得税の軽減又は免除

災害により住宅や家財などに損害を受けた方は、確定申告において

①「所得税法」に定める雑損控除の方法

②「災害減免法」に定める税金の軽減免除による方法

どちらか有利な方法で所得税及び復興特別所得税の軽減又は免除を受けられる場合があります。

これらの2つの方法には、次のような違いがあります。

所得税法(雑損控除) 災害減免法(税金の軽減免除)
対象となる資産 生活に通常必要な資産(注1) 住宅又は家財の損失額(注2)が、その価額の2分の1以上である場合
控除額の計算又は所得税及び復興 特別所得税の軽減額 控除額は次の①と②のうち、いずれか多い方の金額です。

雑損失額(注2)-所得金額の10分の1

②損失額のうち災害関連支出の金額(注2)ー5万円 
※「災害関連支出の金額」とは、災害により滅失した住 宅や家財などの取壊し、除去、原状回復費用など災害に 関連して支出したやむを得ない費用をいいます。

軽減額等は次のとおりです。

その年分の所得金額 所得税及び復興特別所得税の軽減額
500 万円以下 全額免除
500 万円超 750 万円以下 2分の1の軽減
750 万円超 1,000 万円以下 4分の1の軽減
参考事項 ・その年の所得金額から控除しきれない金額がある場合 には、翌年以後3年間に繰り越して、各年分の所得金額から控除することができます。 この繰越しをするには、損失が生じた年分以後連続して確定申告書を提出する必要があります。

・ 災害関連支出の金額に係る領収証は、申告書に添付するか、申告書を提出する際に提示する必要があります。

・ 災害関連支出のうち、災害により生じた土砂などを除 去するための支出、住宅や家財などの原状回復のための 支出(資産が受けた損害部分を除きます。)、住宅や家財な どの損壊・価値の減少を防止するための支出については、 災害のやんだ日から1年(やむを得ない事情がある場合 には3年)以内に支出したものが対象となります。

・原則として損害を受けた年分の所得金額が、1,000 万 円以下の方に限ります。

・減免を受けた年の翌年分以降は、減免は受けられませ ん。

(注)1 棚卸資産や事業用の固定資産、山林、生活に通常必要でない資産は、雑損控除の対象にはなりません。
なお、生活に通常必要でない資産とは、別荘や競走馬、1個又は1組の価額が 30 万円を超える貴金属、書画、骨とう等をいいます。

(注)2 資産に生じた損害金額から保険金などによって補てんされる金額を差し引いた後の金額をいいます。

雑損控除の適用における「損失額の合理的な計算方法」

雑損控除の計算において、災害により被害を受けた住宅や家財、車両の損失額は、その損失の生じた時の直前におけるその資産の価額を基として計算することとされています。

しかし、①住宅の主要構造部に損壊がある場合で、かつ、②損害を受けた資産について個々に損失額を計算することが困難な場合には、 次の方法により計算して差し支えありません。

住宅に対する損失額の計算

① 住宅の取得価額が明らかな場合

 損失額(注1、2) =(住宅の取得価額 - 減価償却費(注3) )× 被害割合(注4)

(注)1 保険金、共済金及び損害賠償金などで補てんされる金額がある場合には、その金額を差し引いた後の金額が損失額となります。
ただし、被災者生活再建支援法に基づくものは除きます(以下 同じです。)。
(注)2 損失額には、損害を受けた住宅等の原状回復費用(修繕費)が含まれます(以下同じです。)。
(注)3 減価償却費の計算は、次のとおりです(以下同じです。)。 償却率は、別表「非業務用資産の償却率」をご覧ください。

減価償却費 = 住宅の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数※
(※1年未満の端数は、6月以上は1年、6月未満は切り捨てます。)

(注)4 被害割合については、被害状況に応じて、別表「被害割合表」により求めた被害割合とします(以下同じです。)。

② 住宅の取得価額が明らかでない場合

 損失額 =〔(1㎡当たりの工事費用 × 総床面積)- 減価償却費〕× 被害割合

(注) 1㎡当たりの工事費用は、地域別・構造別に定められていますが、長野の場合以下の通りです。

単位(千円) 木造 鉄骨鉄筋コンクリート造 鉄筋コンクリート造 鉄骨造
長野 186 244 248 234

その他の地域は国税庁のHPを参照ください。
国税庁のHP(地域別・構造別の工事費用表(1m2当たり)【令和元年分用】)

家財に対する損失額の計算(生活に通常必要な動産で、車両を除きます。)

① 家財の取得価額が明らかな場合

 損失額 =(家財の取得価額 - 減価償却費)× 被害割合

② 家財の取得価額が明らかでない場合

 損失額 = 家族構成別家庭用財産評価額 × 被害割合

(注) 家族構成別家庭用財産評価額

世帯主の年齢 夫婦 独身
  ~ 29歳 500万円 300万円
30 ~ 39  800万円
40 ~ 49 1,100万円
50 ~ 1,150万円

大人(年齢 18 歳以上)1名につき 130 万円を加算し、子供(年齢 18 歳未満) 1 名につき 80 万円を加算します。

車両に対する損失額の計算

 損失額 =(車両の取得価額 - 減価償却費)× 被害割合

(注)車両については、生活に通常必要な資産と認められる場合に、雑損控除の対象となります。
なお、生活に通常必要であるかどうかについては、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族が、専ら通勤に使用しているなど、車両の保有目的、使用状況等を総合勘案して判断することになります。

住宅借入金等特別控除等(住宅ローン控除)の特例

① 適用期間の特例

災害によって被害を受けたことにより住めなくなってしまった住宅用家屋(以下「従 前家屋」といいます。)については、住めなくなった年以後の残りの適用年においても、引き続き、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けることができます。

適用期間の特例を受けるための手続は、通常の確定申告又は年末調整と同じです。

新たに取得等をした住宅用家屋について住宅借入金等特別控除等の適用を受ける(※)など一定の場合には、適用期間の特例の適用を受けることはできません。

※ 下記「②重複適用の特例」の適用を受けることができる被災者生活再建支援法の対象となる再建支援法適用者は除きます。

② 重複適用の特例

被災者生活再建支援法が適用された市町村の区域内に所在する住宅用家屋を、その災害により住むことができなくなった場合には、その従前の家屋に係る(特定増改築等)住宅借入金等特別控除と、一定期間内に新たに住宅用家屋の再取得等をした場合の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除又は認定住宅新築等特別税額控除を、重複して適用することができます。

重複適用の特例を受けるためには、新たに取得等をした住宅用家屋については(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けるための適用1年目に必要な書類を、従前家屋については(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けるために必要な書類のほか、被災の事実等を明らかにする次の書類を確定申告書に添付する必要があります。

・ 従前家屋の被害の状況等を証する書類(り災証明書)(写し可)

・ 従前家屋の登記事項証明書(滅失した住宅については閉鎖登記記録に係る登記事項証明書)(原本)

所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額

税務署から予定納税額の通知書が送付された方で、災害により住宅や家財などに損害を受け、その年の申告納税見積額が、予定納税額の通知書に記載された予定納税基準額に満たないと見込まれるときは、 予定納税額の減額を申請することができます。

なお、この申請書の提出期限についても、上記「災害により申告等が期限までにできない場合」の期限延長の対象となります。

7月の減額申請 その年 6 月 30 日時点の所得金額と税額を見積もり、原則として7月 15 日までに第1期 分及び第2期分の「予定納税額の減額申請書」を提出してください。
11月の減額申請 その年 10 月 31 日時点の所得金額と税額を見積もり、原則として 11 月 15 日までに第 2期分の「予定納税額の減額申請書」を提出してください。

(注)提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。

災害により事業用資産などに被害を受けた個人事業者の方

災害により事業用資産や棚卸資産などに被害を受けた個人事業者の方は、その損失の金額を事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入することができます(保険金などにより補てんされる部分の金額は、 必要経費に算入されません。)。

また、損益通算してもなお引ききれなかった損失の金額(以下「純損失」といいます。)がある場合には、次のように取り扱います。

・青色申告の場合 純損失の金額を、その年の前年に繰り戻して還付の請求をするか、又はその年の翌年以後3年間に繰り越して、各年分の総所得金額等から控除することができます。

・白色申告の場合 純損失の金額のうちに被災事業用資産の損失の金額があるときは、その部分の金額は、翌年以後3年間に繰り越して、各年分の総所得金額等から控除することができます。

災害による消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例

災害により被害を受けた事業者が、災害の生じた日の属する課税期間について、簡易課税制度の適用を受けることが必要となった場合(受けることの必要がなくなった場合)には、災害がやんだ日から2 月以内に所轄税務署長に申請し、その承認を受けることにより、災害の生じた日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を受けること(適用をやめること)ができます(事業用資産や棚卸資産などに相当な損害を受け、緊急な設備投資を行うため、簡易課税から一般課税への変更が必要となった場合などに適用されます。)

り災証明書の添付又は提示

「り災証明書」は、災害により家屋に被害を受けた場合、その被害を受けた方が市区町村に被害の状 況を申告した後、その市区町村がその状況を確認した上で発行されるものです。

この証明書には、例えば、り災原因や、全壊や半壊など家屋についての被害状況等が表示されていることから、確定申告で「所得税及び復興特別所得税の全部又は一部の軽減」を受けられる場合の被害割合を判定する際の目安となるものです。

税務署では、申告書等を提出する際に「り災証明書」を添付するか、又は提示する必要があります。

災害により受領する災害義援金等

災害により受領する災害義援金等のうち次のものについては、所得税及び復興特別所得税の課税の対象とはなりません。

・被災者生活再建支援法による被災者生活再建支援金など、支給する法令の規定上非課税とされている もの。

・心身又は資産に加えられた損害について支払を受ける義援金や見舞金で、その受贈者の社会的地位、 贈与者との関係などに照らし社会通念上相当と認められるもの。

(注) 事業所得等の必要経費に算入される金額を補てんするものや、休業期間中の収益補償など事業所得等の収入金額に代わるものについては、課税の対象となり、事業所得等の総収入金額に算入する必要があります。

別表

非業務用資産の償却率

(注) 耐用年数は、通常の耐用年数を 1.5 倍したものとなっています。

建物

建物の構造 耐用年数 償却率
鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造 70年 0.015
れんが造、石造、ブロック造 57年 0.018
金属造 骨格材の肉厚4mm超 51年 0.020
金属造 骨格材の肉厚3mm超4mm以下 40年 0.025
金属造 骨格材の肉厚3mm以下 28年 0.036
木造または合成樹脂 33年 0.031
木造モルタル造 30年 0.034

車両

種別 耐用年数 償却率
普通自動車 9年 0.111
軽自動車(総排気量600cc)以下のもの 6年 0.166

被害割合表

区分 被害区分 被害割合(%)
住宅
被害割合(%)
家財
摘要
損壊 全壊・流出・埋没・倒壊 100 100 被害住宅の残存部分に補修を加えても、再び 住宅として使用できない場合
(倒壊に準ずるもの含む) 100 100 住宅の主要構造部の被害額がその住宅の時価の50%以上であるか、損失部分の床面積がその住宅の総床面積の70%以上である場合
半 壊 50 50 住宅の主要構造部の被害額がその住宅の時価の 20%以上 50%未満であるか、損失部分の床面積がその住宅の総床面積の20%以上70% 未満で残存部分を補修すれば再び使用できる場合
一部破損 5 5 住宅の主要構造部の被害が半壊程度には達しないが、相当の復旧費を要する被害を受けた場合 
浸水 床上1.5m以上 平屋 80
(65)
100
(100)
・海水や土砂を伴う場合には上段の割合を使用し、それ以外の場合には、下段のかっこ書の割合を使用します。 なお、長期浸水(24 時間以上)の場合には、 各割合に 15%を加算した割合を使用します。

・「床上」とは、床板以上をいい、二階のみ借りている場合は、「床上」を「二階床上」と読み替え平屋の割合を使用します。

・「二階建以上」とは、同一人が一階、二階以上 とも使用している場合をいいます。 

床上1.5m以上 二階建以上 55
(40)
85
(70)
床上1m以上1.5m未満 平屋 75
(60)
100
(100)
床上1m以上1.5m未満 二階建以上 50
(35)
85
(70)
床上50cm以上1m未満 平屋  60
(45)
90
(75)
床上50cm以上1m未満 二階建以上 45
(30)
70
(55)
床上50cm未満 平屋  40
(25)
55
(40)
床上50cm未満 二階建以上 35
(20)
40
(25)
床下 15
(0)

(注) 車両に係る被害割合については、上記を参考に、例えば、「補修を加えても再び使用できない場合」には被害割合を100%とするなど、個々の被害の状況を踏まえ適用します。

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