残念ながら、金融機関はあなたの会社の決算書を信用していないかもしれません。
私は5年間、金融機関の会計監査をしてきました。
その中で、金融機関が融資先の決算書を独自に修正しているケースを何度も目の当たりにしてきたからです。
なぜ、金融機関は決算書を修正するのでしょうか?
それは、融資先の決算書を修正しないと、「実態」が見えないからです。
金融機関は、融資先の収益力、財務状況(債務超過かどうか)、償還能力(借入過多かどうか)の3つを重視します。
これら3つを正確に判断するために、決算書を修正せざろうえないのです。
というのも、資産性のないものが資産として平気で計上されている決算書があったりするからです。
特に、修正される決算書は、大企業にくらべて中小企業等の方が多いです。
これは、大企業は会計監査を受けているということも影響するのでしょう。
(会計監査は、決算書が適正に作成されていることを公認会計士が証明するものですので、決算書が間違っている可能性は低くなります。)
通常であれば、資産性のないものは資産に計上せず、しかるべき会計処理を行います。
資産が減るということは、財務状態に悪い影響を与えますし、収益力に悪い影響を与えることもあります。
決算書のどういうところが修正されてしまうのか知る事は、金融機関と付き合っていく上で有用なことだと思っています。
今回は、そんな金融機関が実施している決算書の実態修正についてお話します。
あなたの会社の決算書も実は修正されているかもしれません。
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決算書の実態修正
決算書の実態修正とは
金融機関は、融資先の決算書などの情報にもとづき、優良な債務者であるか、問題のある債務者であるかを評価しています。
この評価の結果を「債務者区分」といいます。
債務者区分については、以下の関連記事を参照ください。
fa-arrow-circle-right金融機関は決算書のココを見る!融資に強い決算書はこれだ!
しかし、融資先から入手した決算書を見て、そのまま優劣を評価するわけではありません。
決算書に反映されていない含み損などを識別し、資産を減額修正することで、正確な収支や財務内容を把握するようにしています。
決算書の修正は、基本的にバランスシートを見て判断していきます。
修正されたバランスシートを「実態バランス」といい、実態バランスをみることで、実質的に債務超過となっていないかを評価するのです。
また、収益力や、償還能力を判断する際も、修正された実態ベースの収支やキャッシュフローを使います。
債務償還年数を算定し、業種ごとの指標にあてはめて判断する。
入ってくるお金をキャッシュインフロー、出ていくお金をキャッシュアウトフローといい、これらをまとめてキャッシュフローという。
売上債権(受取手形・売掛金)
残高の期間推移や、回転期間分析によって長期未回収となっているものや、架空計上のものは資産性がないものとして、資産から減額します。
例えば、相手先別の残高内訳書を前期と比較して、同額で計上されているものは、長期回収がなされていないと判断したりします。
資産が減るということは、それだけ財務状況が悪くなるということです。
融資対策だけに限らず、売上債権の回収管理はビジネスをする上でも重要です。
長期未回収の売上債権については、回収するか、損失として計上するなどの対応が必要になります。
また、取引開始の段階で、相手先の財務状況や経営者の資質などを評価して、取引の上限金額を設定するなど、与信管理を適切に行うことで、回収不能となるようなリスクを減らすことができます。
棚卸資産(商品、製品、仕掛品、原材料など)
残高の期間推移や、業界の平均的な回転期間と比べるなどして、長期滞留している在庫、陳腐化している在庫は、資産性がないものとして、資産から減額します。
回転期間が長くなればなるほど、在庫がたまっている状態をあらわします。
建設業のように、受注単位の金額が大きく、在庫となる金額も多額となるような業種では、受注単位での進捗状況をチェックしたりします。
業界平均と比べて回転期間が長い場合は、その内容を追跡して調査するなどして、不良在庫の有無を確かめたりします。
在庫は、厳密にはお金ではありませんが、在庫がたまる状況というのは、不要な支出が増えるということでもあり、資金繰りの悪化に影響します。
融資対策、資金繰り対策の観点からも、不要な在庫を持たないようにすることが重要です。
具体的には、過去の実績や受注確度にもとづく販売計画などによって、必要な在庫量を仕入れるなどの工夫が必要です。
棚卸資産回転期間は、売上原価のかわりに売上高を分母として計算する場合もあります。
貸付金、仮払金、未収入金、立替金など
残高の期間推移などによって、回収可能性のないものは、資産から減額します。
貸付金は貸付先の財務内容を確認することもあります。
仮払金、未収入金、立替金は、資産性の無いものが混じり込んでいる可能性が高いため、残高が大きくなっているような場合は、特に詳細な調査をされることになります。
具体的には、残高内訳書を見て、内容がよくわからないもの、前期と比較して金額に動きがないものなどを資産性がないものとして扱ったりします。
仮払金、未収入金、立替金については、その内訳を正しく把握しておくことが重要です。
内容不明のものがある場合は、その内容を調査しておきましょう。
そして、計上されている内容は、資産性があるものだと主張できるようにしておくことが重要です。
有価証券、出資金、ゴルフ会員権などの有価証券
上場株式を保有していて、時価評価をしていない場合は、時価評価した場合の含み損益を反映させます。
非上場株式などは、金額が重要なものについて、投資先の財務内容を確認したりします。
その結果、評価損が生じるようなものは資産から減額します。
ゴルフ会員権などは、含み損が出ているケースが多いです。
有形・無形固定資産
有形・無形固定資産については、減価償却不足がないかを調査し、減価償却不足がある場合には、資産から減額します。
減価償却費については、法人税法上任意で計上するものであるため、意図的に減価償却費を計上しないで利益をかさ上げするようなケースがあります。
(なお、個人事業主には所得税法が適用されます。所得税法上は減価償却費を計上しなくてはならないため、計上しないという選択はありません。)
ですが、私は、減価償却費をきちんと計上するように指導するタイプです。
理由は、以下のとおりです。
- 税務申告書を見ればすぐにバレる
- 金融機関の印象が悪くなる
- 経営者の資質が疑われる
減価償却費を意図的に計上しない方法をとって、見かけの利益を増加させたところで、税務申告書の別表をみれば償却不足額があることはすぐにわかります。
あなたがお金を貸す立場で、減価償却費を意図的に計上しないで、見かけの利益を多く見せようとする人をどう思うでしょうか。
私は、「信用できない人」という印象を持ちます。
金融機関の担当者も、きっとそう思うでしょう。
また、提出した決算書の信頼性を低下させるだけではなく、あなたの経営者としての資質(評価)についても低下させてしまうリスクがあると思います。
したがって、減価償却費は計上しておくのが望ましいといえます。
繰延税金資産
将来の課税所得見込額から、過大計上されていないか調査します。
換金性のある資産ではないことから、全額資産から控除する場合もあります。
中小・零細企業においては、税効果会計の適用は強制されていないため、繰延税金資産を計上していないケースは多いと思います。
退職金やデリバティブ取引
退職給付債務として、負債計上する必要があるものがないか調査します。
退職給付は、退職一時金や退職年金といった従業員が退職した際に支払われる退職金のことです。
退職給付は従業員に対する負債で、従業員の勤務年数が増えるほど増加していきます。
デリバティブ取引がある場合は、時価評価額を計算して、資産負債に加減します。
代表者からの借入金や代表者個人の財産がある場合
中小企業等の場合、会社が代表者より借入をしている場合、その借入金は自己資本相当額に加えることができるとしています。
つまり、負債が減るというイメージをしてもらえればと思います。
また、中小企業等においては代表者に預金や有価証券、不動産などの財産がある場合、返済能力として加味することができます。
したがって、個人で財産を所有している場合、その保有状況を証明できれば、融資の際の評価を上げることができるといえます。
最後に
以上、金融機関が行っている決算書の実態修正についてのお話でした。
最後に、金融機関はすべての決算書を修正しているというわけではありません。
収支の状況、財務の状況が適正に表示されている場合は修正が必要ないからです。
ですので、あなたの決算書は信じてもらっているかもしれないし、信じてもらっていないかもしれないのです。
また、中小企業では、決算書以外に代表者の個人資産がある場合は、返済能力に加味するなど、評価にプラスとなる修正をしてくれることもあります。
つまり何が言いたいかというと、金融機関はあなたの敵ではないということです。
お金を借りる側としては、金融機関が知りたい情報を嘘偽りなく開示することで、良好な関係を構築することができるのです。
相手が嘘つきだと信用はなくなる。
ということです。
ぜひ、金融機関と良好な関係を構築するようにしてください。
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