棚卸資産(在庫)の評価方法とメリット・デメリットをプロが解説

こんにちは。

長野市の丸山 大介 公認会計士・税理士事務所です。

今回は、棚卸資産の評価方法について解説したいと思います。

棚卸資産の評価とは

棚卸資産とは

棚卸資産
在庫のこと

棚卸資産を簡単にいうと、「在庫」です。

ビジネスをする上で、在庫を保有することは多いと思います。

  • 棚卸資産の種類
商品・製品 販売するために保有しているモノなど
仕掛品 販売を目的として製造中のモノなど
原材料 販売目的の商品や製品を生産するために使われるモノ
貯蔵品 事務用消耗品で、販売活動や事務活動で短期的に消費されるモノ

棚卸資産の評価とは

棚卸資産の評価
期末に所有している在庫の金額を計算すること
在庫金額=単価×数量

期末に所有している在庫の金額は、単価に数量を掛けて計算します。

棚卸資産の評価で問題となるのは、単価をいくらで計算すればいいのか?

というところです。

数量については、実地棚卸をして実際に数えれば確定させることができます。

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それでは、単価はどうやって決定するべきでしょうか?

1つ、1つの仕入れ単価にもとづいて計算すればいいじゃないか?

と思ったかもしれません。

でも、仕入価格って毎回おなじとは限りませんよね。

たとえば、製造業の場合、部品の発注数量や、市況によって仕入価格が変動します。

部品点数が多いと、すべての仕入価格を把握するのも大変です。

ですので、「在庫の単価はこうやって計算しましょう」という決まりがいくつかあります。

原価法による棚卸資産の評価

在庫の単価を計算する方法は、原価法と低価法というものがあります。

まず最初に知っておきたいのが、原価法です。

原価法による棚卸資産の評価は、以下の6つの方法があります。

  • 最終仕入原価法
  • 先入先出法
  • 個別法
  • 総平均法
  • 移動平均法
  • 売価還元法

最終仕入原価法とは

最終仕入原価法
一番最後に仕入れた商品の単価を使って在庫の金額を計算する方法

税務上の法定評価方法になり、税務署に「棚卸資産の評価方法の届出」を提出していない場合は、必ず最終仕入原価法で評価する必要があります。

〈ケース〉
当期において商品を2回仕入れた。
1回目:@10円×15個
2回目:@15円×5個
期末に10個の在庫があった。

最終仕入原価法では、最後に仕入れた商品の単価を使って在庫の金額を計算します。

したがって、今回のケースでは@15円の単価を使って在庫金額を計算します。

最終仕入原価法のメリット・デメリット

期末の在庫数量に対し、期末日にもっとも近い最終仕入単価を掛けて在庫金額を計算するため、実務的に簡便です。

しかし、期末の在庫数が、最終仕入数量を上回る場合、期末の在庫金額と払出金額(原価)の金額が実際の価格を反映しません。

今回のケースでは、最終仕入原価法による払出金額が75円に対し、あるべき姿の金額は100円であることから、最終仕入原価法のほうが払出金額(原価)が少なく計算されています。

また、在庫の金額については、最終仕入原価法の方が高くなっています。

今回は、最終仕入原価法の払出金額が小さくなっていますが、逆のケース(払出金額が高くなる)場合もあります。

先入先出法とは

先入先出法
先に仕入れた商品から払い出されたと考えて、在庫の金額を計算する方法

〈ケース〉
当期において商品を2回仕入れた。
1回目:@10円×15個
2回目:@15円×5個
10個払い出しされて、期末に10個の在庫があった。

先に仕入れた商品から順次払出が行われたと考えて計算する方法のため、実際の物の流れとは関係なく計算します。

したがって、2回目の仕入@15円×5個と1回目の仕入@10円×5個を足した金額が在庫金額になります。

先入先出法のメリット・デメリット

実務上、先に仕入れたものから順次払い出しをすることが一般的ですので、実際の物の流れと一致することが多い方法です。

また、期末の在庫数が、最後に仕入れた数以下であれば、最終仕入原価法と同じ計算になります。

しかし、期末の在庫数が、最後に仕入れた数を超えると、期末在庫の数を満たすまで仕入をさかのぼって単価を調べる必要があります。

したがって、計算が煩雑になる可能性があります。

個別法とは

個別法
仕入れた商品それぞれの単価を使って在庫の金額を計算する方法

〈ケース〉
10万円、6万円、3万円の指輪を仕入れて、6万円の指輪が売れた。

期末在庫は、残っている在庫のそれぞれの単価を使って在庫の金額を計算します。

個別法のメリット・デメリット

個別法は、実際の物の流れと価格が一致するため、実際の価格が反映することができます。

しかし、利益操作の余地があるため、宝石や絵画、不動産や中古車など個別性の高い取引に採用が限られます。

通常、ひとつの取引によって大量に取得され、かつ、規格に応じて価額が定められているものについては、採用することができません。

総平均法とは

総平均法
一定期間の仕入高に対し一括して平均単価を計算し、在庫の金額を計算する方法

〈ケース〉
当期において商品を2回仕入れた。
1回目:@10円×15個
2回目:@15円×5個
10個払い出しされて、期末に10個の在庫があった。

当期に仕入れた金額の合計を、当期に仕入れた数で割って単価を計算します。

期首に在庫がある場合は、在庫の金額と在庫の数も考慮して計算します。

総平均法のメリット・デメリット

単純に、仕入れた金額の合計を仕入れた数で割るだけですので、計算が簡単です。

しかし、平均単価を計算し終わるまで払い出し単価が確定しませんので、適時に正確な原価計算ができません。

必ずしも1年分をまとめて計算する必要はなく、実務的には1か月単位などで区切って総平均単価を計算するケースなどもあります。

移動平均法とは

移動平均法
仕入れのつど、平均単価を計算する方法

〈ケース〉
12月  1日:商品を仕入れた(@10円で30個)
12月15日:商品を仕入れた(@14円で30個)
12月16日:50個払い出した
12月25日:商品を仕入れた(@16円で40個)
12月26日:30個払い出した
期末に20個の在庫があった。

仕入れのつど、平均単価を計算しますので、12月16日の払い出し単価は、以下のとおりです。

12月1日の仕入(@10円×30個)と12月15日の仕入(@14円×30個)を足して、仕入総数60個(30個+30個)で割った@12円になります。

12月26日の払い出し単価は、12月16日に残っている在庫の金額(@12円×10個) と12月25日の仕入(@16円×40個)を足して、50個(10個+40個)で割った@15.2円になります。

移動平均法のメリット・デメリット

仕入のつど、平均単価を計算しますが、払い出し数を把握していないと計算ができません。

したがって、払い出しごとに、払い出された数と平均単価を把握することになります。

そのため、適時に売上原価を正確に把握しやすくなります。

また、在庫数量を把握できるため、在庫管理に有効です。

ただし、前項で計算方法を見ていただいたとおり、事務処理がかなり煩雑になります。

在庫数量を把握するためには、仕入れ(受け入れ)と払い出しの数量を記録するだけでもできますので、在庫管理の有用性という観点だけでの採用は考えなおした方がいいでしょう。

売価還元法とは

売価還元法
期末在庫の売価に原価率を掛けて、在庫金額を計算する方法

〈ケース〉
期末在庫の売価は100万円、原価率は70%である。

売価還元法は、値入率等の類似性にもとづいて在庫のグルーピングを行い、グルーピングごとの期末の売価合計額に原価率を掛けて在庫金額を計算します。

今回のケースでは、原価率が70%ですので、期末在庫の売価100万円に原価率を掛けた70万円が在庫金額になります。

値入率
値入は商品の販売価格を決定することです。値入率は、利益(売価-仕入原価)÷売価で計算できます。
値入率は、商品販売前の見込み売価にもとづき計算します。
原価率

原価率は、売価に占める原価の割合の事で、以下のとおりに計算します。
(期首在庫金額+当期仕入額)÷(当期売上額+期末在庫の売価)=原価率

売価還元法のメリット・デメリット

売価還元法は、品目ごとの単価を個別に把握する必要がないため、事務的に簡便です。

しかし、グルーピングに恣意性が入ってしまうおそれがあります。

低価法による棚卸資産の評価

低価法とは

低価法
原価法の金額が、時価より高いときは時価で計算する方法

原価法では、「最終仕入原価法、先入先出法、個別法、総平均法、移動平均法、売価還元法」の6つがあります。

低価法は、原価法で計算した金額が、時価より高いときは時価で計算していいですよというものです。

つまり、時価か原価法のいずれか低い方の金額を使えるということです。

原価法と時価との差額は、評価損として経費に計上できます。

逆に、原価法で計算した金額が、時価より低い場合は原価法の価格を使います。

時価
売価または再調達原価(再度仕入れるのに必要な金額)

時価は、売価または再度調達する際に必要な価格を使うことができます。

なお、厳密には時価は以下のようになります。

売価 正味売却可能価額を使う。
正味売却可能額=売価ー見積追加製造原価(未完成品に限る)-見積販売直接経費
再調達原価 購買市場の時価に、購買に付随する費用を加算したもの。
最終仕入原価を含む。

再調達原価は、製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、売価が再調達原価と歩調をあわせて動くと想定される場合に適用できます。

低価法のメリット・デメリット

在庫の時価が原価法の金額を下回っている分を評価損として計上するため、将来売却等によって発生する可能性のある損失をあらかじめ見込んでおくことができます。

また、損失を計上する分、節税になります。

しかし、低価法に用いる時価を把握するのが困難なケースもあります。

原価法に比べて、事務的にひと手間かかる点がデメリットともいえます。

低価法の適用する際の注意点

低価法を適用する際は、どのようにして在庫の時価を把握するか考えなくてはなりません。

売価については、期末前後での販売実績にもとづく価格や、得意先との契約により定められた一定の売価をもちいることが考えられます。

税務調査対策として、売価計算の参考とした資料(販売実績のわかる注文書やレシート、契約書など)は必ず保存しておくようにしましょう。

再調達原価による場合は、仕入先からの見積書、同業者からの情報などの資料を収集し、それに過去に仕入れた時の付随費用等を参考として時価を計算することが考えられます。

この場合も、仕入先からの見積書、同業他社から入手した情報などの再調達原価の計算の参考にした資料は、税務調査対策として保存しておくようにします。

棚卸資産の評価方法を採用する上での注意点

  • 最終仕入原価法以外を選択する場合、「棚卸資産の評価方法の届出」を税務署に提出する必要がある。

棚卸資産の評価方法の届出を提出しないと、法定評価方法である最終仕入原価法によって在庫金額を計算しなければなりません。

最終仕入原価法以外を採用する場合は、棚卸資産の評価方法の届出を忘れずに提出しましょう。

法人の場合
国税庁HP 棚卸資産の評価方法の届出
個人事業主の場合
国税庁HP 所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続

  • 一度選択した方法は、安易に変更できない

税金が安くなるからと、毎年のように評価方法を変更することは認められません。

特別の事情がない限り、3年間は継続適用する必要があります。

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